詩の朗読再生
No.52 (1978年、41歳)
彫刻家の苦しみⅠ
(セメント彫刻、58.5×47.0㎝、奥行94.5㎝)
一過性脳虚血発作は、命に対する警告だった。
僕は、死の恐怖に怯えながら、生きている。
帰宅は毎夜10時頃。
夕食と入浴後、12時頃まで、酒を飲む。
酒を飲まないと、ストレスを発散できず、眠ることが出来ない。
僕には、睡眠は貴重だ。
眠らないと、彫刻を作る体力が回復しない。
学校では、制作時間は作れない。
「眠らなければ」。
強迫観念に追われ、毎夜一升の酒を飲む。
12時過ぎに、ベッドに倒れ込んで、3~5時間、眠る。
早朝3時か5時に起床。
7時過ぎまで、毎日2~4時間、制作をする。
8時過ぎに出勤し、教師としての多忙な日常を繰り返す。
連日、深酒をする僕に、妻が、悲鳴を上げる。
「あなたは、一日二人分の仕事をしている。自分の命を食べて生きている。こんな生活は、必ず、命を落とす。命を捨ててまで、彫刻を作る必要があるのですか。あなたの壮絶な生きざまは、身を切り裂かれるほど辛い」。
「僕から、彫刻を取ったら、何が残るのだ。僕は死んでも良いのだ。彫刻を作れるのなら、本望だ」。
僕は、死ぬことばかりを考えて、生きている。
妻が、ベッドで嗚咽する。その泣き声を聞いて、僕は、膝を抱えて、自分を責める。