動画と詩の朗読再生
No.55 (1980年、43歳)
煉獄で生きる男
(セメント彫刻、105.0×78.0㎝、奥行110.0㎝)
40代の僕は、不眠に悩みながら、死を畏怖し、死を渇望して、生きている。
苦しみから逃れる為に、連夜、大酒を飲んで、酩酊する。
目覚めた時の深い後悔。
蟻地獄のような、異常で病的な日常から、どうやって脱出すればよいのだ。
僕は、腰を屈め、地を這う老人のように生きている。
死を渇望しながら、生きることを願う。
矛盾する心と闘いながら、僕は叫ぶ。
「本当は、生きたいのだ。生きて、彫刻を作りたい。子と妻を愛したい。子らは成人していない。長男は、たった7歳だ。彼の為に、僕は生きなければならない。だが、何故、こうも、生きることが苦しいのだ。辛くてたまらないのだ」。
僕は、今、煉獄で生きている。
体も、命も、燃える苦しみ。
水をくれ。一滴の水をくれ。
命を焼き尽くす煉獄から、僕を、解放してくれ。
僕の存在から。
僕の命から。
仕事から。
彫刻から。
家族から。
ひと思いに、地獄へ、突き落としてくれ。
煉獄で生きるより、地獄で生きる苦しみの方が、潔い。
僕は、今、煉獄で生きている。
腰をかがめ、老人のように。
身を焦がしながら。
命を焼き尽くしながら。