詩の朗読再生
No.54 (1979年、42歳)
彫刻家の苦しみⅡ ―男の本音―
(40.5×101.0㎝、奥行39.7㎝)
38歳の妻は、仕事をしながら、5年間、大学院へ通って、博士号を取ると言い出した。
僕は、色よい返事をしない。
長男は、6歳で幼いのだ。
僕も、過労死寸前だ。
僕は、生きることに疲れている。
寂しくて、寂しくて、堪らない。
僕の傍で、僕を優しく包んでくれ。
僕の母は、常に家族の中心に居て、子供と父の世話をした。
僕は、母に依存して生きてきた。
母が、子と夫の世話をする。
僕の体には、母の温もりや生き様が、沁みついている。
母は、僕の人としての魂の根幹を作り上げた。
40歳を過ぎた僕は、妻に母の温もりを求めている。
「博士の妻と母は、要らない。優しい妻と母がいれば、良いのだ」。
だが、僕は自分の本音を話せない。
博士号を取得したい妻の気持ちも、病院の妻の立場も、理解出来るからだ。
僕は、自分を革新的で、進歩的な男だと自任して生きて来たが、本当の僕は、昔ながらの男中心の家庭に執着する普通の男だ。
僕は、矛盾する気持ちに苦しみながら生きている。