詩の朗読再生
No.53 (1979年、42歳)
彫刻家の妻の苦悩
(セメント彫刻、39.0×82.0㎝、奥行80.0㎝)
38歳の妻は、大学病院勤務9年。
帰宅は毎夜9時過ぎ。
長女は17歳、次女は15歳。
長男は6歳。
妻も疲労に極みにいるが、僕が12時過ぎにベッドで眠るまで、眠らない。
妻は、日記に書く。
「資格社会の大学病院で、無資格者の私は、沢山の論文を書いて、業績を残さなければ、この仕事の必要性を認めてもらえない。女が、仕事と育児を両立する難しさ。長男を抱きながら、涙が止まらない。母を許して欲しい。夫は、大酒は飲むが、酒に溺れて、志を曲げることは、決してない。常に正気で真剣だ。どんなにつらくても、学校へ出勤し、教師の仕事を全うしている。帰宅後は、連日、彫刻を作る。彼は、命を削って生きている。夫との人生は、私が背負った十字架だ。血を吐き、地獄の苦しみの中で、のたうち回って生きている夫を見ても、私は、何もしてあげられない。子と母の生活を守る為に、病院で生き残って仕事を続ける為に、博士号を取るしかない」。
彫刻家の僕と結婚した為に、妻も、もがき苦しんで、生きている。