詩の朗読再生
No.40 (1972年、35歳)
10年目の二人
(セメント彫刻、185.0×50.0㎝、奥行30.0㎝)
1972年12月。
31歳の妻は、日記に書く。
「夫は、学生運動の同志で、思想的に尊敬出来る、芸術家志望の先輩だったが、男としては野放図で、私が望む結婚相手では無かった。夫に、『愛している。結婚しよう』と言われた時も、躊躇と不安しか無かった。あれから10年。夫は、誠実に正直に生きた。10年の歳月を経て、私は、やっと夫の誠実さと人柄の良さに気づく。夫はどんな時でも、私から、離れなかった。それが、どんなに、有難いことか。今は、骨身に沁みて理解出来る。この人と結婚して、本当に、良かった。この人と生涯、寄り添って生きたい。大切な二人の子は健全に育ち、孫に囲まれて母も幸せそうだ。私は、もうひとり、夫の子供を産みたい。結婚10年目の心からの、私の願いだ」。
1973年1月、妻は、3人目の子を妊娠した。
僕達は、10年の年月をかけて、互いを理解し、寄り添うことが出来る夫婦になった。
二人の子の成長と第3子の妊娠は、10年間の全ての苦労を忘れさせ、報われた瞬間だった。
僕は、結婚後、初めて心から安堵し、3人目の子の誕生を待ち望んでいる。